2016年1月31日日曜日

坂口安吾による3つの断章


◎坂口安吾による3つの断章
op.97 Trois fragments de Ango Sakaguchi
 いづこへ Andante assai
 私は海を抱いてゐたい Poco andantino quasi moderato con moto
 ふるさとに寄する讃歌 Moderato assai
作曲年月 2016年1月
演奏時間 10分
楽器編成 声楽(バリトン)、ピアノ
委嘱 岡元敦司
初演 岡元敦司(バリトン)西澤健一(ピアノ)/2016年4月・五泉市立図書館ホール

* * *

 今年(2016年)の4月。僕は岡元君(と、共通の友であるメゾ・ソプラノの新宮由理さん)とともに新潟へと向かった。当地では録音に加えコンサートが予定されていたが、そこで披露するために新潟ゆかりの詩人でなにか一曲書けないだろうか、と相談を受けたのが、この作品の始まりだった。

 西脇順三郎という名前が浮かんだが、あの世界はいかにも僕と合わない。僕がすんなりと馴染める言葉を書いたのは坂口安吾。彼はもちろん小説家であるから、詩文ではない。だが、露悪的とすら言われる彼だが、その言葉の美しさたるや。彼の短編から僕自身の手によって言葉を抜き出し、整え、これをテキストとした。ゆえに「断章」である。

 僕が選んだ小説は『いづこへ』『私は海を抱きしめてゐたい』『ふるさとに寄する讃歌』の三編である。たまたま自分の書棚にあったから、という理由でもあるが、おそらく彼を最も象徴する言葉「落伍者」を筆頭に掲げ、その落伍者たる自分を丸のまま認め受け入れる過程を描き出したいと思った。創作年代は逆行するが、この順で並べる必要があった。なお安吾が抱きしめたいと願った「海」を描くために、ハイネの巨大な棺が流れ着いた「海」を利用したことは、今のうちに素直に白状しておく。

 明治以降の小説家たちが物した言文一致体による散文のなかにも、「詩」と呼ばれるべき言葉の多くがいまだ手つかずのまま遺されているのを、日本語を母語とする作曲家として見過ごすわけにはいかない。この作品は、今後作ることになるだろう歌曲やオペラの試金石になったかもしれない。(初演時プログラム)

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