2019年10月14日月曜日

【楽典】音程カレンダー


むかしむかし。まだまだパソコンが高価で、みんな手書きで楽譜を書いていた頃。「2オクターヴ上で」の指示を「16va」と書くおっちょこちょいさんが作曲学科にもけっこういました。8度を単純に2倍にしちゃったんですね。しかし、16度というのは、もちろん2オクターヴと2度のことです。語尾の「va」は、見なかったことにしてあげましょう。

1度と4度と5度と8度が完全グループで、などと覚えていくと、どうやら8度と9度の境目でこんがらがるようです。僕が楽典とソルフェージュを教えている生徒さんの1人も、分かっちゃいるのにオクターヴを越えると数え間違えるおっちょこちょいさんなので、こんな表を作ってあげました。名づけて、音程カレンダー。

道理は簡単です。日曜日から始まるカレンダーを思い浮かべてください。このカレンダーでは水曜日と木曜日がお休みの完全週休3日制。なんと素晴らしい。このお休みの日が完全音程です。2週目が1オクターヴ上、3週目が2オクターヴ上。「1オクターヴと長6度」は「長13度」、「2オクターヴと完全4度」は「完全18度」と、すんなり単音程名が答えられるようになります。「2オクターヴ上」は「15度」と、これなら間違えません。

曲線でくくったのは転回の関係。火曜日を転回すると金曜日なんですね。どうりで昔からカーカーキンキンと歌になるわけです。土曜の朝4時も実質的に金曜深夜28時みたいなものだから、やはり増6度はどうしても日曜日に向かうわけですよ。などと説明したらポカンとされたので、飲み歩いていない未成年にはちょっと早かったかもしれない。

音大受験を控えた皆さん。楽典の試験の最中、不安になったら、思い出してみてください。

2019年9月11日水曜日

猫の島・キツネ村訪問記、などなど。


2台ピアノ(に限った話ではないのですけど)を書くとき。僕は全くタイプの違う奏者を想定します。個性の違う、音色の違う、性格の違う、服のセンスも好きなラーメン屋も何もかも違うピアニストが二人いて、お互い、相手の趣味に寄せる気ゼロという状態を考えるわけです。スタインウェイなりベーゼンなりで同じピアノを2台揃えたところで、2人の打鍵が同質に揃えられるなんてことは不可能なのであって。それなら、まったく違う色で弾いてもらったほうが、面白い。

8月18日。仙台ピアノデュオの会会員による第20回記念デュオコンサート。この会のために2台ピアノのための新作『祝典ソナタ』を書き下ろしました。僭越ながら僕自身もゲスト出演ということで、2014年に書いた2台8手のための『夏の前奏曲』を演奏。初演がまさに5年前の仙台でした。再演を重ねると変わっていきますね。初演時と違うメンバーの演奏であっても、再演は再演の響きがする…作曲家をやっていて不思議に思うことのひとつですが、これが楽しい。僕自身リラックスした伸びやかな演奏が出来たと思います。リハーサルの音源ですが、You Tubeにアップしておきました。


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今回の滞在では、ちょっとした旅をしました。

19日。フェリーで石巻から田代島に。「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった島のひとつという噂もありますが、それよりも猫の島として有名で、フェリーの船内も、明らかに地元の人たちという以外は、外国人観光客が多く見受けられました。

日差しの強い日で暑いは暑いものの、東京のような、モワリとした湿気は感じません。港に着くやいなや、道端に猫、塀の上にも猫。いかにも島らしい細い途を歩いていると、寝てる猫、散歩している猫、建物にこっそり入りたがってる猫、ケンカしてる猫、たまにヘビ。大事にしてもらっているのか、旅人にもあまり警戒心を示しません。

島中央部にある猫神社にお参りしてから、カフェ「クロネコ堂」で看板メニュー「ねこカレー」を食す。もともとは簡易郵便局だったようで、現在は島の資料館も兼ねているようです。壁には昭和13年の逓信省からの令旨が参謀総長戴仁親王の署名で「支那事変勃発以来或ハ軍ニ従ヒテ繁劇ナル野戦郵便、電信若ハ其他ノ要務ニ服シ」などとあって、これが実にキレイに保存してあるので、戸外の静けさも相まって一瞬タイムスリップした気になりました。

僕は、あれは馬鹿な戦争だったと思っている人ですけど。ただ、あの頃の地位ある方々の言葉というのは、構文がしっかりしていて、どんなに長い一文でも崩れない。美しいは美しい。そういう言葉が扱える高度な訓練を受けた人たちでも道を誤るのだということを、崩れまくった現代語を喋っている我々も忘れずにいたほうが良いでしょう。

石巻の街も散策。石ノ森章太郎の出身地だけあって街中至るところにサイボーグ009。石ノ森萬画館にも寄りました。震災後、木村拓哉とビートたけし、笑福亭鶴瓶が出演した車のテレビCMに使われていた建物は、ジンギスカンを出す飲み屋として営業中。ここの女将がとても愛らしい性格で、僕は好きになりました。

東京の人間として旅行にやってきて、石巻の飲み屋で雑談していると、どうしても「津波」という話題になります。たくさんの確かめられない死…確かめられないから死とは認められない何かが、消せないメールの数々となって残っています。けれど、それはそれとして、生きている以上は生きていかなければなりません。

生きるということ。食ったり飲んだりするということ。田んぼで米を刈ったり、海で魚を採ったり、商売したりするということ。だが「何にも進んでない」と女将はこぼしていました。「戦後の闇市みたいにさ、商売するときなのよ今は。本当はチャンスなのよ。でもさあ…私ももうちょっと若けりゃ説教して回るんだけどねえ」

都市計画にまつわる意見の相違ということなのか、とにかくお上からの規制が厳しいようです。「嵩上げなんかしなくったってね、動線だけちゃんとしてればいいの。あと、高い建物。避難できる場所。全部流されても命さえあればなんとかなるんだから」

5年前『夏の前奏曲』初演の際に見学した荒浜の観音像をふと思い出しました。あの日の記憶を忘れまいと像が建立されても、肝心の人々のことは、そこに生きて生活してきた生きている人々のことは、今なお忘れられたまま。内蔵をむき出しにしてひしゃげている電柱の脇で、帰りたいと訴える人々が黄色い旗を掲げていました。その声に同調するように、応援するように、小さなタンポポたちもひっそり咲いていたのを覚えています。

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20日。白石に移動し蔵王キツネ村を訪問。珍しい種類のキツネや、何らかの事情のある数匹の子が檻に入れられている以外は、100匹近くの個体が放し飼いにされているということです。写真のこの子にはクンクンと足元のニオイを嗅がれたうえで、マーキングされました。どうやら僕は光栄にもこの子の所有物になったようです。そういうこともあるので、動物のすることに寛大な心を持てない人には、あまりオススメいたしません。

だっこ体験もできます。別途600円也。

最寄りのバス停を通る市営バスは週に2回のみ(!)の運行で、猫の島でも見かけた外国人観光客を、ここでも見かけました。髭面のいかつい男と、おそらくオランダ語らしき言葉を喋っている女の子たち。まったく同じ旅程を辿ったようです。ひどい雨の日でしたが、ずぶ濡れになりながら、彼ら彼女らはたいそう楽しんでいました。こういう場所は、日本人よりむしろ外国人にウケが良いようです。

夜空に白く浮かび上がる白石城。仙台よりかはもちろんのこと、石巻よりも静かです。ところで、白石といえば、うーめん。油の入っていないそうめんと言えばイメージしやすいでしょうか。麦と塩だけの素朴な麺で、飲み屋に蕎麦屋、小料理屋と、うーめんを出していない店が見つけられないほど。東京でも稀に乾麺なら見かけますけど、出している店は見当たりません。胡桃ダレの冷やしうーめんを蕎麦屋でいただいてから、帰途につきました。

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ということで、猫の島・キツネ村訪問記は、これにておしまい。

取って付けたようにココで載せるのもどうかと思いますけど、いくつかの写真を。まず1枚目。7月8日、鶴見のサルビアホールにて。荒井章乃さんが『無伴奏ヴァイオリンのための小ソナタ』を初演してくださいました。端正で美しい音程と音色の持ち主で、リハーサルの段階で僕が言うことは何もない状態まで仕上げてくださったので(本当に何も言わなかったので、かえって不安にさせたかもしれないですけど…)僕の作品も幸せでした。左はヴィオラの三浦克之さん。僕よりも派手な人を久々に見ました。長いことお二人でデュオのコンサートシリーズを開いているそうで、これが(僕好みの)渋い会でした。いずれはデュオを書きましょう、と、打ち上げの席でお約束しましたので、お楽しみに。



2枚目。8月24日、東京文化会館小ホールにて。東京リコーダー音楽祭で中村栄宏くんが『リコーダーとピアノのための小ソナタ』(同じタイトルだ…)を演奏。真ん中はリコーダーアンサンブル曲の作曲家として日本のリコーダー界でも馴染みの深いゼーレン・ジーク氏。この会のために来日されたそうで、インド料理屋でお昼もご一緒しました。作曲家らしからぬオープン・マインドっぷりで、良い人です。

3枚目。8月31日、新大久保のスタジオ・ヴィルトゥオージにて。この曲を中村くんと共に委嘱・初演し、CDにも収録してくれたピアノの安嶋健太郎氏と、客席にいらしていた作曲家の酒井健治氏。同年生まれで、名前こそ良く存じ上げているものの、この日が初対面。不良作曲家の僕はともかく、裏番組が芥川作曲賞だったのにコッチに来ちゃって良かったのでしょうか。

安嶋氏が音楽ジャーナリスト池田卓夫さんに「同年代の作曲家で誰のを演奏したら良い?」と相談した際、彼は「西澤健一、酒井健治」と名前を挙げたとかで、ありがたいことです。僕と酒井氏とは、作風というか、取り組んでいることの種類のようなものが違いますけど、あくまでこの世界は、幅広く、多様なスタイルの音楽が同時代的にあってはじめて豊かなのであるというところを強く共有していると思います。そんな話をネタにしながら中華屋で餃子を食べ、すっかり遅くまで一緒に飲んで、いろいろの話をして、酒井氏は新幹線を逃すという。学生時代を思い出すような、グダグダな一日を楽しく過ごしました、とさ。

2019年8月30日金曜日

オーバード


◎朝の歌
op.102a Aubade pour Hautbois d'amour et Piano
作曲年月 2017年12月
演奏時間 5分
楽器編成 オーボエ・ダモーレ(またはイングリッシュ・ホルン、またはファゴット)、ピアノ
委嘱 倉田悦子
初演 2018年1月・秋川キララホール 倉田悦子(オーボエ・ダモーレ)西澤健一(ピアノ)

* * *

今年の4月、ファゴットのマティアス・ラッツ氏が来日した折、代々木のムジカーザで小さな会が催されました。内容は、サン=サーンスのファゴット・ソナタと僕の新作ファゴット・ソナタの日本初演(世界初演は作曲家本人の知らない間にスイスで済まされていたという、のをFacebookで知るという)。ピアノは山口佳代さんでした。

僕もアンコールでラッツ氏と共演しました。オーバード。もともとはオーボエ・ダモーレのために書いた小品でしたが、それをファゴット用に直したものです。ラッツ氏がご自身のチャンネルで動画を公開されているので、ご紹介します。

映像だと場の空気まではなかなか伝わりませんけど、曲の終わりでラッツ氏が素晴らしく柔らかい表情をしていて、僕はピアノの椅子の上で思わずキュンとしました。演奏家の良い顔を拝めるというのは、なによりの作曲家へのご褒美です。

この会については、日本ダブルリード(株)の多大なるご協力がありましたありましたことを追記しておきます。ちなみに、花房晴美さんの室内楽シリーズ「パリ・音楽のアトリエ〈第16集 ピアノ、西洋と日本の笛〉(2019年04月18日)」でもアンコールとして演奏されました。ラッツ氏が強く推してくださったそうです(……。)

いま、この作品について、出版に向けた話が進んでおります。オーボエ・ダモーレ用の原曲、イングリッシュ・ホルン用、ファゴット用と3つのパターンを出版社に渡しているんですが、さて、どういうカタチで製本されるのやら…。

オーボエ・ダモーレ版もここに貼り付けておきましょう。倉田悦子さんの演奏です。