2020年1月27日月曜日

美空ひばり、終演

1月25日「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」終演しました。

MCというよりレクチャーというか、長々とマニアックな話ばかり致しました。日露戦争だの大正時代の日本文学だのと延々と脱線しまくりました。おかげで夜の部の出演者に控室のドアをノックされる有様。歌の背景の背景あたりをどうしてもお伝えしたかったからこそなんですが、こんな僕の度し難い煩悩をも温かく受け止めてくださるご来場の皆さまに助けられ、良い演奏もできたと思います。

耳慣れた曲のはずなのに、こんなに印象が変わるんですね。そんなご意見を受け取りました。それこそが僕の狙いだったわけで、無事に本懐を遂げたと安堵しました。作品を残すとは、誰も悲しまないように、上手に本人の思い出を消していく作業に他ならない。「美空ひばりの津軽のふるさと」ではなく、ただの、無垢の、「津軽のふるさと」にするということ。逆説的ですが、そうしてはじめて、生前の姿の記憶のない人にも美空ひばりの存在を伝えていくことができるのではないか。

歌人の友人・栗原寛君からは「『津軽のふるさと』というより『ロシアのふるさと』だったよね」との言。歌人はなんでも短い言葉で言えちゃうから油断ならないぜ。


とかなんとか言いながら、売れない演歌歌手のような姿で申し訳ないっす。

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ここでひとつ告知を。

学校法人中部大学創立80周年記念コンサート。サイトには作曲者名の記載がありませんけど、この『中部大学祝典ファンファーレ』というのが、僕の作曲。中部大学春日丘高等学校吹奏楽部の皆さんが演奏してくださるそうです。1分あまりの短い曲ですけど、80年の長きにわたり人材の育成に貢献されてきた学園のために祝典曲を書くというのは、作曲家として、たいへん光栄なことです。貴重な機会を賜りましたこと、関係各位に感謝します。


◎学校法人中部大学創立80周年記念コンサート
【日時】2020年3月1日(日曜日)開場:午後1時30分 開演:午後2時
【会場】日本特殊陶業市民会館フォレストホール(名古屋市中区金山1-5-1)
入場無料(要予約。1月31日まで)

2020年1月20日月曜日

覆水、盆に返らず~AI美空ひばり所感


電気楽器の発明者のほとんどが、初期の自動車デザイナーが馬車を真似たように、十八、十九世紀の楽器を真似ようとした。テレミンが新たな可能性をもたらしたときテレミン奏者がやったのは、甘ったるいヴィブラートをかけて過去の名曲を無理やり弾くことだった。我々は新たな音の体験から遮られたのだ(ジョン・ケージ)

 「NHKスペシャル『AIでよみがえる美空ひばり』(2019年9月29日放映)」で披露された「AI美空ひばり」。紅白歌合戦にも起用され、最近また山下達郎が「一言で申し上げると、冒とく」と発言した(2020年1月19日・スポーツニッポン)ことで話題になっています。
 関係者の皆様におかれましては大変なご苦労だったとは思いますが、いかんせん新曲『あれから』の詞と曲とが美空ひばりの個性に全く合致していないというのが痛恨の極み。これが「夏川りみの新曲」とかだったなら、きっと何の文句もなく祝福される曲になっただろうと思いますけど。「松田聖子還暦記念コンサートの新曲」でも良いかもしれない。

 昭和の頃は「巨人嫌い」「北の湖嫌い」の要領で「美空ひばり嫌い」という年寄りもけっこういましたよね。いたんです。たしかに歌は上手いかも知らんがくだらない、浅い、とかなんとか言って。それだけ彼女は説教臭い歌を歌わなかった。「後の祭り」とギャグを言うためだけの『お祭りマンボ』なんて最たるものじゃないですか。
 昭和12年生まれなら戦争の空気を覚えてないわけがないし、子どもごころに感じたことも当然あるはずだけど、彼女の歌った反戦歌は『一本の鉛筆』ただ一曲のみ。この曲にしたって必要以上にセンチメンタルな台詞を吐かないわけです。


 そんな人がポップス調で説教臭い『川の流れのように』を歌ったものだから、当時は意外性とともに受け入れられたものです。そうしてそのまま死んでしまって30年が経ち、世代交代が進んで、徐々に、平成元年の不死鳥・美空ひばりこそが彼女のイメージとなっていく。社会の持つ記憶力の限界というものを考えますけど、とにかく。『あれから』はいかにもその続編という体に過ぎるというか、秋元康氏のあざとさの部分だけが強調されてしまって、彼の仕事としてもどうなんでしょう。
 いっそ生身の人間じゃないことを悪用して、いつもの秋元康氏が書いているようなものを歌わせたほうが余程面白くなったんじゃないかしら。欅坂46『黒い羊』とか。「全員が納得する そんな答えなんかあるものか」って視聴者みんなドキドキするでしょうね。でも案外、そのほうが意外性を楽しむ生前の彼女の姿に近くなったかもしれない。

 ということで、「AI美空ひばり」開発チームには引き続き「AIちあきなおみ」にも取り組んで頂いて、ぜひともシェーンベルク『月に憑かれたピエロ』を歌わせて欲しいと、僕は個人的に願っています。冒とく批判も避けられるでしょう。ご存命ですし。

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 冒とく、という言葉に引っかかりそうな話題をもうひとつ。
 ベートーヴェンの交響曲第10番をAIに復元させる試み。技術者の皆様方には敬意を表しつつも、そら無理やと思うで、というのが正直なところ。結局、死ぬまでの作品を解析することでしかデータは得られないわけですよね。その前提の時点で無理やで、と。

 なにしろ予想の裏をかくというのがベートーヴェンの真骨頂。
 もう少し具体的に言えば、御大が勝手に設定した俺様ルールを聴衆に一方的に押し付けておきながらそれを逆手にとってフェイントをかまし続けるという根性の曲がり具合。わかりやすい例を挙げれば、弦楽四重奏曲第15番を書いた直後の、天国が見えてきましたのでこれからあの世に行って参りますという作曲家が「Es muss sein!」の一発ギャグとともに第16番を書くという脈絡のなさ。素人にはわかりませんが、そういうの、AIはフォローできるんでしょうか。

 囲碁のAIが上手くいっているのは、盤面の四隅に角があるからでもあるし、置ける石の総量が決まっているからでもある。そのいずれも音楽にはございません。むしろ畳の上に石を置くとか、ポケットの中に忍ばせておいた石を相手に向かって投げつける、というのが、あのおっさんの芸風。

 僕は、こんな発想は生身の人間にはできません!すんませんした!という、果てしなくワケのわからんもんをポンポン出力して頂きたいのですよ。研究のためにしていますという趣旨は理解してますけど、過去の作曲家の焼き直しなんて聴きたくないねん。と、Twitterに書いたところ、こういう返信がありました。

つまり、我々は「作曲できるAI」を作る前に、「どのような条件設定をすれば『面白い音楽が作れるAI』を作れるか」ということを人間自身が学習する必要があるということでしょうか。((c)やれやれ氏)

 まさに、そういうことであります。
 例えば、ブクステフーデとリムスキーコルサコフを勉強しまくったパキスタン人作曲家がメキシコに住み始めて5年後に書いた『エチオピア狂詩曲』とか。そういう種類の大喜利精神を発揮して頂かないと面白くない。せっかくの新しい技術なんだから、遊ばなきゃ。

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 死んだ人にしかできない仕事というのはあります。ただ、彼らが仕事をするのに墓から掘り起こす必要はない。死者に本人性は必要ないのであります。尾籠な例を挙げれば、トイレに行くのが面倒だからピアノの下におまるがあったとか、同じピアノの上にはカビたパンが転がっていたとか(ベートーヴェンのことですが)そういう種類の本人性を求めていないのであります。

 死者その人ではなく、死者が遺した仕事を取捨選択し、そこから本人性をうまく取り除いて後世に智慧を繋いでいくという作業。これはたしかに生きている人間にしかできない。誤認逮捕されるくらい服装の汚い缶詰のゴミに囲まれているおっさん(ベートーヴェンのことですが)なんて同時代の人間にとっては迷惑以外の何者でもないので、これは生者の仕事です。そうして生者が仕事を引き継ぎ続けてきた結果、今がある。
 で、価値のあるものを遺すには、よほど生きている我々の耳が肥えてなきゃいけない。「こんなに面白い曲があったのに埋もれさせやがって、どうしてこっちを大事にしなかった!あいつらの耳はフシアナか!」と50年後の後輩に言われたくないですし、幽霊のようにAIに本人を演じさせるよりも、よほど、保存性に優れたジャンルに移植して新たな命を吹き込むほうが長い寿命を得るのではないか、という発想から、「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」という編曲のアイデアが生まれてきたわけです。

 …と、うまく宣伝につながりましたね。

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◎クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり
日時 2020年1月25日(土)
   13時30分開演(12時開場)
会場 アート・カフェ・フレンズ
   http://www.artcafefriends.jp/
   (JR恵比寿駅西口下車徒歩2分)
チャージ 前売¥3,500 当日¥4,000
     ※お飲み物代500円を別途申し受けます。

曲目
 東京キッド(万城目正)
 リンゴ追分(米山正夫)
 みだれ髪(船村徹)
 悲しき口笛(万城目正)
 車屋さん(米山正夫)
 日和下駄(米山正夫)
 花笠道中(米山正夫)
 哀愁波止場(船村徹)
 悲しい酒(古賀政男)
 津軽のふるさと(米山正夫)
  ※新しい編曲の追加を計画しています。

お問い合わせ
 卍プロジェクト 03-6421-1206
 スタジオ・フレッシェ studiofroesche[at]gmail.com

予約は下の「今すぐ購入」ボタンから
 ※チケットの発送はございません。受付でお名前をお申し出ください。
 ※当日はお飲み物代500円を別途ご用意ください。

2020年1月19日日曜日

1月25日「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」プログラム

◎クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり
日時 2020年1月25日(土)
   13時30分開演(12時開場)
会場 アート・カフェ・フレンズ
   http://www.artcafefriends.jp/
   (JR恵比寿駅西口下車徒歩2分)
チャージ 前売¥3,500 当日¥4,000
     ※お飲み物代500円を別途申し受けます。

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いよいよ「クラシック風アレンジで聴く 美空ひばり」も来週に迫ってきました。「メロディを聴けばなんとなくわかるかもしれないと思うんだけど、題名だけだとわからないかも…」という20代の子のご意見を頂戴し、いつまでも若いつもりでいたけどそういえば本人の記憶がある僕は40代だった、と改めて思い出しましたので、ここで当日演奏する曲目をYou Tubeで拾った本人の動画で紹介したいと思います。

合わせて。ヒトコトで「クラシック風」と言っても幅が広うございます。主に僕がどんな風に考えどんな曲を参照しながら編曲したのか…ということを本番で喋ると喋るだけで時間が終わりそうな気がするので、ここに少し書いておきました。とは言え、それら参照にした曲もきっと「へ?」という感じだと思うので、頭半分で読んでいただいて構いません。

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  • 東京キッド
    • 藤浦洸/作詞 万城目正/作曲

  • 悲しき口笛
    • 藤浦洸/作詞 万城目正/作曲

『愛染かつら』の主題曲でもおなじみの作曲家・万城目正ですが、彼はモダニストです。特に、美空ひばりのために書いたこの2曲のメロディはたいへん同時代的です。終戦直後、1950年代前後の音楽として、全き意味において同時代的です。ヒンデミットの和声あたりがしっくりくるんじゃないかしら、と予想を立てたところ、僕の予想を超えるフィット感でした。

  • ひばりの佐渡情話
    • 西沢爽/作詞 船村徹/作曲

  • みだれ髪
    • 星野哲郎/作詞 船村徹/作曲

先年惜しくも亡くなられた船村徹先生。新聞の追悼記事中には生前の彼の言葉がいくつか載っていましたが、そこで語られていた彼の「ライバル」の存在は、揃いも揃ってドイツの作曲家ばかりで、やっぱりね、と僕は思ったのでした。船村徹のメロディは後期ドイツ・ロマン派の王道です。『佐渡情話』は特にR・シュトラウスの『4つの最後の歌 Vier letzte Lieder』を参照にしました。船村徹は彼女のファルセットを愛していただけあってメロディの音域が広く、生身のクラシックの歌手が歌うと大変技巧的な歌曲になります。

  • 車屋さん
    • 米山正夫/作詞・作曲

  • リンゴ追分
    • 小沢不二夫/作詞 米山正夫/作曲

  • 日和下駄
    • 米山正夫/作詞・作曲

  • 花笠道中
    • 米山正夫/作詞・作曲

米山正夫。不思議な作曲家です。メロディだけを取り出してよくよく観察するとロシア・フランスの流れを感じます。ムソルグスキーをサン=サーンスが持ち帰りドビュッシーとラヴェルが続いた感じがまたソビエトに還っていくという感じ。あの感じが戦後アメリカのビッグバンドでオーケストレーションされ、ときには都々逸も混じってくると。ちょっとあり得ない世界観です。

ただ、とある日本の作曲家の伝記を読んでいたところ、戦争中はラジオから『ペトルーシュカ』が流れていたという記述があって。僕の世代ではなかなかイメージがつかみにくいんですが、戦争に突入する前の大正末期~昭和初期の日本は、ちゃんと「同時代」やってるんですよね。そんな時代を呼吸していれば、米山正夫みたいな育ち方をするのも不思議じゃないかもしれません。

『車屋さん』はラヴェルの『5つのギリシャの歌 Cinq Mélodies Populaires Grecques』の第1曲『花嫁の目覚め Chanson de la mariée』を(結ばれる歌の伴奏で結ばれないおっちょこちょいなお嬢さんの歌を歌うのも面白いかと思いまして)、『日和下駄』は初期ショスタコーヴィチの歌曲『クリローフの2つの寓話 Две басни Крылова op.4』の2曲目『ろばとうぐいす Осел и соловей』を特に参照にしました。『花笠道中』はシャブリエ風にまとめてみようと試みたんですが、果たして成功しているのかどうか。

『リンゴ追分』は前回も取り上げましたが、少しアレンジを変えています。今回大変な挑戦をしました。「やっぱりおかしい」と言われたら「ですよね」としか答えようがないんですけど、この時代の歌謡曲の今日における編曲のあり方という問題提起という意味も込めまして。どんな風にしたのかは、当日までのお楽しみです。

  • 哀愁波止場
    • 石本美由起/作詞 船村徹/作曲

この銅鑼の音。完全にマーラー『大地の歌』とは思いませんか。

  • 悲しい酒
    • 石本美由起/作詞 古賀政男/作曲

    • 関沢新一/作詞 古賀政男/作曲

古賀政男のメロディの特徴は跳躍です。「勝つと思うな、思えば」と「負けよ」の間の下行長9度。こんな音程を軽々と書けるのはバッハとウェーベルンくらいです。という連想から、『悲しい酒』はバッハのアリア風にまとめました。意外とうまくいきました。『柔』はレーガー『素朴な歌 Schlichte Weisen op.76』から『53. Das Brüderchen』の和声を借りています。兵隊さんになった!という歌詞の勇ましい感じが合うと思いました。20世紀初頭でいちばんバッハっぽいことをバッハっぽくやった経験のある人、からの連想であります。

どうでもいいことですが「口で言うより手のほうが早い/馬鹿を相手の時じゃない」という歌詞。いつ聴いてもグッと来ます。こんな歌に満ちていた前回のオリンピックが羨ましい。

  • 津軽のふるさと
    • 米山正夫/作詞・作曲

この歌の編曲はクラシック専門インターネットラジオ・ottavaでも取り上げてくださいました。先述の通りロシア・フランスの流れを汲む米山正夫のメロディなので、元祖たる作曲家ムソルグスキーの『小さな星よ、おまえはいずこに Где ты звездочка?』の和声を用いました。この曲を弾くたびに自分のなかの何かが終わるので、練習に困ってます。

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…以上、編曲にあたっては万城目正、船村徹、米山正夫、古賀政男の4名の曲を選びました。みんな大好き『川の流れのように』のような曲は、どうしてもメロディの作り方が違うので、クラシックの技術ではうまく編曲できないのです。(当時も、あの美空ひばりがポップスを歌っている!という、意外性とともに受け入れられたと記憶しています。)子役時代から脂の乗った円熟期に至るまで。古い歌が並びますが、これらの編曲における僕の目標は「美空ひばりを知らない世代に、これらの作品そのものの価値を伝えること」であります。平成生まれの若い方もぜひおいでください。